初恋 10

 アレクがマリアンヌをグリューネワルト邸に住まわせているという噂は、あっという間に宮廷内に広がっていた。
 マリアンヌがアレクより十歳年上の未亡人というだけで<皇帝を騙している女性>と決めつけている人々が、陛下が彼女を正式に皇妃に迎えようとしている事に驚いた。そして、今のうちに阻止しようと行動を起こし始めた。
<年上で結婚歴があり、しかも女官であった皇妃など言語道断!>と、反対派の様々な中傷は世間にも広がり、特にマスコミのバッシングの酷さにルイーゼも心を痛めた。しかも、どこで手に入れたものかマリアンヌと亡きモーデル子爵との結婚式の映像まで目にしたときは、報道する側のあまりにもの無神経さに呆れて言葉も出なかった。
 こんなふうに好奇の目に晒されているマリアンヌの気持ちを思うと、(あのときオーディンに戻ろうとした彼女を引き留めたのは、果たしてよかった事なのだろうか?)と、ルイーゼは自分の行動に自信が持てなくなっていた。


「こんなに風当たりが強いなんて・・・」
「このような状態になるのは予想していたことです。これはまだ序の口.・・・。この程度で思い悩むくらいでしたら、私はもっと早くに逃げ出していましたよ」
 心配してグリューネワルト邸を訪れたルイーゼに、マリアンヌは笑いながら答えた。
「それにしても・・・お辛くはないですか?」
「・・・昔、フリードリヒ陛下の寵姫だったアンネローゼ様は、命を狙われた事が何度かあったそうです。それに比べれば、このぐらいはたいしたことではありませんよ」
「命!」
 ルイーゼがはっと驚き、息を飲み込んだ。
「大丈夫!私が身の危険を感じたことは一度もありませんから・・・。それより、次はどんな自分が出てくるのか?と今の状態を楽しんでいますよ」
 連日のように報道されているマリアンヌの話題や噂は、まさに毎日主人公が替わるドラマのようであった。年下の男を誘惑する奔放な女性になっているかと思えば、純愛を貫く悲劇のヒロインのようになっていたりと、マスコミの見方で彼女のイメージは次々と変わっていった。なかには悪意に満ちて目を背けたくなるほどの記事もあるのだが、「気にしていない」と話すマリアンヌに、ルイーゼは思わず呟いた。
「モーデル夫人・・・いえ、マリアンヌさまはお強い」
 ルイーゼの言葉に、マリアンヌは穏やかな表情で応じた。
「ルイーゼ、私は昔オーディンにいた頃は、過去を見つめて生きていました。アンネローゼさまに尽くす事が亡き主人コンラートの供養にもなると思っていました。そしてフェザーンに来て、思いがけなく陛下から想われるようになってからは、未来の事ばかり考えていました。いつか離れなければ、私がそばにいることは陛下の為にならないと・・・。でも、過去を見つめる事も、未来を憂う事も、もうやめました。現在<いま>だけを見つめて生きようと決意したら、気持ちが楽になりました。今は、私を必要として下さる陛下の気持ちに応えたい・・・只、それだけを考えています」
 マリアンヌは更に言葉を続けた。
「陛下が安らぎを求めたとき、気持ちをほぐしてあげられたら、それでいいと思っています。陛下は私を『皇妃として迎える!』と意気込んでいますが、私は今のこの状態で充分幸せです。周囲からもとても気を遣っていただいておりますし・・・」
(王宮の関係者がマリアンヌさまに好意的なのは、つい最近までここで働いていた彼女の人柄や今までの行動を知っているからだ・・・)とルイーゼはマリアンヌのここでの待遇に一安心していた。
「ルイーゼ、かなり昔の事件ですが、ロートリンゲン子爵による反逆事件を憶えていますか?確かあの事件では、あなたの亡くなったお母上も巻き込まれて怪我をされたのですよね」
 思いがけない昔話にマリアンヌの意図が判らず、不思議に思いながらもルイーゼが答えた。
「母がその事件で怪我をしたことは知っています。でも、私が小さかった頃の出来事でしたし、事件そのものの詳しい事迄は知らないのです」
 それはルイーゼがまだ一歳の頃起きた事件なのだから、憶えていないのも当然だろう。又、過ぎたことに拘らないというビッテンフェルトの性格もあって、家庭でその事件の事が話題になることもなかった。
 母親の左手の傷跡が皇太后ヒルダを庇っての怪我ということを、娘のルイーゼは成長してから人づてに聞いて初めて知ったぐらいであった。
「あの事件は、陛下の心の戒めとなっています。王朝に後継者がいるというだけで人々は安心するものだと・・・。陛下はお小さい頃から、御自分の立場の重みを充分理解しています。『隙を見せてはいけない、あとを継ぐ者がいない王朝は争いの元なのだ』と、いつも私に話してくれます。陛下が一番、後継者のいない王朝の事を心配していますよ」
 陛下の周囲や世間がアレクとマリアンヌとの結婚の反対する大きな理由の一つに、後継者の問題があるのはルイーゼも知っていた。マリアンヌは<陛下は自覚している>という事を伝えたかったのだと、ルイーゼは気が付いた。
 ただマリアンヌはそのあとに続くアレクのいつもの言葉を、ルイーゼには話さなかった。アレクは「不可能な事だが、のんびりと気儘な人生を歩みたいものだ・・・」とよくマリアンヌに語っていた。彼が望む平凡な家庭、そして自由な人生、どれも普通であれば簡単に手に入れられそうなものなのだが、皇帝のアレクには手が届かないものばかりであった。そんなアレクの<愛する女性と共に過ごしたい!>というささやかな願いが、大きな執着となってしまったのも仕方ないことだと、マリアンヌは思っていた。


「さぁ、この巴旦杏のケーキを召し上がれ。今朝、焼いたのですが・・・」
「マリアンヌさまのお手製ですか?・・・とっても美味しい!」
「ありがとう。これは昔、アンネローゼさまに作り方を教えて頂いたのです。陛下もとても気に入ってくださって、よくこのケーキをリクエストして召し上がりますよ」
 ルイーゼはマリアンヌの話しぶりから、ここでくつろぐアレクの姿が想像できた。お喋りを楽しんでいる二人に、初老の執事が来客の訪れを知らせた。
「ワーレン大佐がお見えですが・・・」
 現在、軍務省から出向して陛下の元にいるアルフォンスは、アレクとマリアンヌの間に立つ連絡係の役割も担当していた。
「えっ、ワーレン大佐!ごめんなさい、マリアンヌさま!私、急用を思い出したの・・・」
 慌てて帰り支度をするルイーゼに、驚いたマリアンヌが何か言おうとした。しかし、目の前のルイーゼはその隙も与えず「それでは・・・」と告げると、あっという間にマリアンヌの前から立ち去ってしまった。その素早い早業に、マリアンヌも目を丸くしていた。
 ルイーゼがグリューネワルト邸の玄関ドアを開けると、書類を持って立っていたアルフォンスと鉢合わせをしてしまった。
「ルイーゼ!」
 思いがけなく現れたルイーゼに驚きながらも、アルフォンスは嬉しそうに話しかける。
「暫くだったね・・・。あの~、君とゆっくり話がしたいんだ。このところ、なかなか逢えなかったし・・・。今日、時間があるかい?」
「ごめんなさい、アルフォンス。それにあなたは、マリアンヌさまにご用があるのでしょう?」
「マリアンヌさまへの用件はすぐ済む。だから・・・」
「悪いけど、私急ぐの。ごきげんよう!」
 ルイーゼはそう答えると、速攻で走り去った。アルフォンスは久しぶりにルイーゼと逢えたのに、あっという間に去ってしまった彼女の後ろ姿を見送り、深い溜息を吐いていた。
 ルイーゼの行動に唖然としていたマリアンヌは、アルフォンスが来たことと関係があるのを察して彼にそれとなく訊いてみた。
「ルイーゼと何かあったのですか?」
「いえ、まぁ・・・。私は、あんまりしつこくて嫌われてしまったかな・・・」
 苦笑いするアルフォンスに、マリアンヌはお茶を注いだカップを差し出して、先ほどの来客と同じように手作りのケーキを勧めた。
「ルイーゼもなかなか複雑そうですね。普段は素直な性格なのに、何故だか自分の恋心には頑なになっているような気がします」
 マリアンヌの微笑みで心が和んだアルフォンスが、用件を話すのも忘れてつい相談していた。
「実は、ルイーゼに交際を申し込んだんです。周りの様子からもルイーゼの気持ちに手応えを感じていたんです。でも本人からは断られてしまいました。断られた理由も私にはまだ納得できなくて・・・。ルイーゼともっと話し合いたいんですが、あれ以来彼女は私を避けてしまっているのです。電話してもビッテンフェルト家を訪ねても、妹のヨゼフィーネやお手伝いのミーネさんばかり応対して肝心のルイーゼは出てこないし・・・」
 難しい顔で答えたアルフォンスに、マリアンヌが励ます。
「物事は強く想い続けていれば、いつか叶うものです。最近、私は特にそんな気がしているんですよ」
「えぇ、私は諦めるつもりはないのですが・・・」
 アルフォンスは先ほど走り去ったルイーゼの後ろ姿を思い出しながら、自信が薄らいでいる自分を感じていた。


 ルイーゼは広い王宮の庭を一気に走り抜き、門を出てからやっとひと息入れてゆっくり歩き出した。

ダメ、逢ってはいけない
アルフォンスを見たら
こんなに胸が高鳴ってしまう!
涙がでるほど
切なくなってしまう
逢えば
冷静でいられなくなってしまう
早く、
彼を友達として見ていた以前の私に戻らなくては・・・

 自分の恋心が止められなくなるのを、ルイーゼは恐れていた。



 それから数日後に行われた恒例の各閣僚交えての全体会議では、陛下の結婚絡みの議題で討論が繰り広げられていた。多くの貴族の閣僚が、モーデル夫人が単なる愛人の状態ならば見逃せることが出来ても、アレクの希望である正式に皇妃とするのでは反対という意見であった。
 本来ならば結婚は個人の問題で、こんなふうに周囲が議論すること事態おかしな話なのである。しかし、普通の平民でも<結婚>となればお互いの家同志の思惑が絡み合い、親戚などが出しゃばって大騒ぎすることもよくある話である。<銀河帝国皇帝の結婚>ともなれば国家の一大事となってしまうのも、仕方のないことなのだろう。
 容赦ない言葉でマリアンヌを攻撃しアレクとの結婚を反対する貴族達に、ビッテンフェルトは(貴族の身分意識とは、なんと根強い事なのだろう・・・)と半分呆れながら聞いていた。
 ローエングラム王朝になって二十年以上過ぎた。政治や法律など人々を取り巻く環境はどんどん替わり、そして定着していった。しかし、結婚や社交界など貴族達たちの生活に直接関わる日常の根本的な改革には、まだ時間が掛かるようだとビッテンフェルトは実感していた。
 そんななか、議長のワーレンはある人物を紹介した。
「実は、私はモーデル夫人自らの要請で彼女を診察致しました」
 アレクの信頼厚い侍医の発言に、ざわめいていた会場が沈黙した。
 グリューネワルト邸に移り住んでから間もなく、マリアンヌは「自分が妊娠可能な体かどうか調べて欲しい」とアレクに願い出た事があった。難色を示したアレクに「陛下が私を皇妃と望むのならこの事は知る必要がありますし、私自身自分の体の事は理解しておきたいのです」とマリアンヌは笑顔で話した。マリアンヌに悲壮感は感じられなかったが、アレクは彼女の気持ちを汲み取ってきっぱりと告げた。
「それでマリアンヌの気が済むなら・・・。しかし、どのような結果になっても君を皇妃に迎える決意は替わらない!」
 以前のアレクは、マリアンヌの存在を隠す事で必死に彼女を守ろうとしていた。そして公になってからは、皇妃という身分を与え、彼女自身に地位と権力を付ける事で守りたいと考えていたのだ。
 アレクのマリアンヌに対する熱い想いを知っている侍医は、会場の注目の中診察の結果を伝えた。
「モーデル夫人に異常は全く見られませんでした。確かに皆さんが仰るとおり、若い女性と比べばご懐妊は年齢的に不利かも知れません。しかし、陛下のご寵愛の深さから言えば有利と言えるのでは?」
 陛下の意向を伝えるかのような侍医の発言に、反対派の貴族が応じた。
「では、モーデル夫人が妊娠してから正式に皇妃として迎えるのでも遅くないことだが・・・。しかしどちらにしろ、彼女がそれなりの家柄の生まれでないのも、皇妃としての体裁が悪いとは思いませんか?」
 反対する者はどのような言葉でも納得せず、次から次へと違う言い訳を探し出してくるものである。
「では、モーデル夫人がご懐妊の暁には、私の養女として陛下の妃に迎えて頂くというのはどうでしょう。先帝の皇妃でもある皇太后も我が一族の出身であれば、皇妃の実家という形式も整うでしょう」
 ヒルダの実家マリーンドルフ家の親戚筋にあたるマリーンドルフ男爵の、意外な発言に会場はざわついた。
「ばかげたことを・・・」
 ビッテンフェルトが呆れてつい呟いてしまった。
「ほう、ビッテンフェルト閣下は、私の意見にはご不満ですか?」
 ビッテンフェルトと犬猿の仲でもあるマリーンドルフ男爵とは、全体会議でけんか腰になるのはいつものことである。
「昔、皇妃の実家に権力を持たせないために、その一族をことごとく殺して将来の禍根をたった帝王もいたと言う話があったなぁ~。皇太后のお父君のマリーンドルフ伯爵は聡明なお方だったので、先帝に惜しまれつつも御自分から身を引いたものだが、卿も同じ立場になったらそうするのかな?」
 野心豊かなマリーンドルフ男爵に、政界を引退する気持ちなど全くない事は誰もが知っていることである。焦っている彼を見たこのときのビッテンフェルトは、目障りな存在をやりこめた事で心の中で舌を出していたに違いない。
 しかし、あの亡きオーベルシュタインが先帝ラインハルトに今のビッテンフェルトと同じような意見を進言したことは、ヴァルハラに召された二人以外誰も知らなかった。
「では、ビッテンフェルト閣下は、モーデル夫人が皇妃になることに賛成だという事でしょうか?」
 顔を赤らめた男爵が、注目の矛先を変えるように、慌ててビッテンフェルトに質問した。今日の会議では、ビッテンフェルトはそれまで珍しく一言も発言をしていなかった。実のところ彼は、この件では悩んでいたのだ。 
 先日、娘のルイーゼからマリアンヌの近況を聞いて(今のこの状態の方が、彼女は心安らかに過ごせるかも知れない・・・)と思うふしもあった。皇妃という身分と引き替えに受ける様々な重圧やストレスは、この会議からも想像がつく。マリアンヌの身になって考えてみれば、彼女がどの道で生きるのが一番幸せなのか、ビッテンフェルトも判断が難しかった。従ってマリーンドルフ男爵の質問に、ビッテンフェルトは彼らしくなく言葉に詰まってしまった。その様子に、ミュラーが助け船を出すように議長のワーレンに問いかけた。
「皇太后はこの件について、どのようにお考えなのでしょうか?」
「実は皇太后の意見はもういただいているのだ。では、この辺で皆に聞いてもらう事にしよう」
 議長のワーレンはあらかじめ皆の意見が出そろった段階で、ヒルダの意見を出した方がいいと考えていたのだ。
 先帝ラインハルトが死に際、皇妃であったヒルダに「自分より賢明に宇宙を統治しているだう」といった言葉は、その後の彼女の業績が証明していた。その政治的手腕の見事さと、明晰な頭脳を持つ彼女の影響力は大きかった。それ故、最初に彼女の意見を出してしまうと、その意見と反対の者達は自分の意見を言わなくなる可能性があった。ワーレンはそんな貴族達の鬱積が溜まるのを避けたのだ。
 この問題で公私ともに難しい立場であるヒルダの意見に、皆興味を持ち大きなスクリーンに映る彼女の姿に注目していた。
「陛下の気持ちに添うようにしていただきたいと思います。周囲で将来のことを思うあまりいろいろな意見があるという事は、私も知っています。でも、先の事など誰にも予測できないものです。私達だって、これまでの多くの歴史を変えてきました・・・」
 最初に結論をはっきり告げた皇太后の言葉に、迷いは無かった。波乱の時代を生き抜き、ローエングラム王朝の基礎を築いた皇太后ヒルダの重みのある発言であった。
 ヒルダは、息子アレクにとってマリアンヌが大切な人になっているということは昔から知っていた。肩肘を張って生きねばならないところがある皇帝という立場で、アレクが無防備になれる相手は貴重な存在である。本来であれば、母親である自分がその役割を果たすべきであったし、ヒルダもそれを望んでいた。しかし、一日が二十四時間では足りないくらい忙しい摂政としての日々の中、アレクの成長ともにヒルダは息子と家庭で会うより公式な場で皇帝と皇太后として過ごす時間の方が多くなってしまった。いつしか、アレクはヒルダに皇帝としての自分しか見せなくなっていた。
 伯母に当たるアンネローゼをフェザーンに呼び寄せてからは、アレクは家庭的な団欒をグリューネワルト邸に求めて、ヒルダとの距離はどんどん離れていった。ヒルダは心を閉ざしてきた息子に寂しさを感じていたが、いつか親子の関係が修復されることを信じて過ごしていたのだ。ヒルダの心の中で、この結婚がそのきっかけとなるかもしれないと願っていたことは、まだ誰も知らなかった。
 ヒルダの意見が発表されて以降、マリアンヌを皇妃と認める賛成派が増えていった。そして最終的に、ローエングラム王朝に新たな皇妃が誕生するいう結論に落ち着いたのである。



 陛下の結婚が決まり、その準備の為アレクの周囲は慌ただしくなっていた。次の世代を代表するアルフォンスやフェリックスが中心となって、アレクの結婚式の準備は進められた。
 皇帝の結婚という世紀のイベントに、アルフォンスは多忙を極め自分の恋愛どころではなくなっていた。ルイーゼとの仲を何とかしたいと願っているのに行動出来ず、ただ時間だけが過ぎていく事にアルフォンスは焦りを感じていた。しかし、陛下の結婚式の周到な準備に集中すればするほど身辺は慌ただしく、気持ちに余裕がなくなっていた。
 一方、ルイーゼは気が滅入ることが多くなっていた。このところ、アルフォンスから連絡が無くなってしまった。陛下の結婚問題で忙しい為と思っていても、つい別の理由も考えてしまう。

普通に考えても、
女性に交際を申し込んで断われた場合、
その女性とはもう関わりたくない!と思うのが当然だろう
しかも私は、アルフォンスにプロポーズを何度も断っている
アルフォンスから避けてもいた
嫌われたっておかしくない筈なのだから、
アルフォンスからの連絡が途絶えたのも仕方ないこと・・・

逢えばかえって辛くなる
切ない気持ちが募るだけなのに・・・
でも、
彼に逢いたい・・・
彼のそばにいたい・・・
この気持ちが、なかなか消えてくれない

 一見普段と変わりないように振る舞っているルイーゼだが、無意識に溜息をつき沈みがちになる事に、父親のビッテンフェルトは気が付いていた。何とかしてやりたいと思いつつも、今はそれどころではないアルフォンスの状態を知っているだけに、二人の関係の足踏み状態を焦れったい気持ちで見ていた。
 又、ときにはルイーゼの心細さがビッテンフェルトにも伝染して(アルフォンスは、ルイーゼの事を諦めてしまったでは・・・)と不安になることもあった。ヨゼフィーネもそんな父と姉を見て、自分が何をすべきか懸命に考えていた。
 ビッテンフェルトとルイーゼの悶々とした日々の中、陛下の結婚式への準備は順調に進んだ。そして思っていたより早く、アレクとマリアンヌは晴れの日を迎えることが出来た。


<続く>