ぼんやりと人影が見えている
あれは何?



・・・幼い女の子が、母親の胸の中で泣いている
「どうして私は、右と左の目の色が違って生まれて来たの?
お友達がね『目の色が違うのはおかしい』て言ってた・・・
こんな目じゃなくて、みんなと同じになりたい」

母親は優しい笑顔で女の子の涙を拭いてあげる
「あなたの目はとっても素敵よ。ムッターは大好きよ」

女の子は納得できないようにふくれている
母親は女の子にある恋の物語を話し始めた


むかし、ある国に黒色の瞳の凛々しい王子様がいました
隣の国に住んでいる蒼色の瞳の美しい王女様に恋をしました
王女様も王子様が大好きになりました
でも戦争で敵と味方に別れて、逢えなくなりました
二人はとても悲しんで、今度生まれ変わったら、絶対に一緒になろうと約束しました
お互いの目を片目だけ交換して、金銀妖瞳<ヘテロクロミア>で生まれ変わって
すぐ相手が判るようにしようと二人で決めました


「私は王女様の生まれ変わり?」
幼い女の子は目を輝かせて母親に問いかけた
「どこかで同じ目をした王子様が、あなたを捜しているかもね」
母親はすっかり機嫌を直した女の子を見て、穏やかに笑っていた・・・

その光景が、だんだん薄くなって消えてゆく


「・・・おい!こんな所で寝ていると風邪を引くぞ!」
あの男の声で目が覚めた
私はリビングのソファーに座ったまま、うたた寝していたらしい
目の前には、金銀妖瞳<ヘテロクロミア>の男がいた

思わず男の両目を見つめた私に
「寝ぼけているのか?」
男は冷笑を浮かべながら言った

「『寝ぼけている』ですって!!」なんて失礼な事を言う男だろう
恥ずかしさと怒りで、傍に置いてあったクッションを男に目がけて投げつける
男はスゥと身をかわしてどこかに行ってしまった

「もう・・・」ため息が出た
実際、なんて夢を見たのかしら・・・
あの男が王子様!ばかばかしい
でも、あの女の子の髪は何色だった?
母親の顔はどんな感じだった?
覚えていないわ・・・

別にいいじゃないの 関係ないわ
あの男の相手の生まれ変わりが誰であろうと・・・
あの男、自分の前世の恋人を捜して、次々相手を変えているの?
まさかね・・・

ちょっと鏡で自分の顔を覗いて見る
目は両方とも同じ色・・・

鏡に写る自分に問いかける
何してるんだろう、私・・・
バカじゃないの・・・
あの女の子は、私じゃないわ
だいいち あの男は一族の憎い仇よ!
最近どうしたの?
恨みを忘れた?
殺意が薄れた?
違う!
私は目的を忘れてはいない!
あの男は私の敵!
あの男を破滅させるため、私はここにいるのだ
自分の気持ちを新たに引き締める

鏡の中にあの男の姿を見つける
「何か用?」
冷たく言い放つ
「別に・・・。ここは俺の家だ。どこにいようが俺の勝手だ」
鏡の中の金銀妖瞳<ヘテロクロミア>の男が答える

「お前、自分の前世って信じる?」
突然の問いかけに、鏡の中の男は怪訝顔になった
「お前はどうなんだ?」
「私・・・私は生まれ変わりなんて信じないわ!」

そうよ、今この世にいて、あの男の命を狙っているのが私!

でも、どうしてあんな夢見たのかしら・・・


<END>


~あとがき~
一族の仇を捕ろうという使命に燃えているエルフリーデなのですが、潜在意識の中にロイエンタールが棲み始めたようです。
自分の夢に複雑に反応しているエルフリーデを表現してみました。
彼女の夢の中に出てきた女の子に母親が語った「あなたの目はとても素敵よ。ムッターは大好きよ」という言葉は、幼いロイエンタールが自分の母親から聞きたいと願った言葉かな?と思いました。