グロスファーターの心理(報告)

 ビッテンフェルトの娘ルイーゼが、ワーレンの息子のアルフォンスと結婚してから二ヶ月が過ぎていた。夫のアルフォンスの「ヨゼフィーネが寂しがらないように、出来るだけ実家には顔を出すように!」という言葉に甘えて、新妻はしょっちゅう里帰りをしている。



「ルイーゼ、お前また来ているのか?一家の主婦がこんな時間まで遊んでいるなんて・・・」
 仕事から帰宅したビッテンフェルトが、リビングでくつろいでいるルイーゼを見て真っ先に怒った。
「全く、いつまでも娘気分ではダメじゃないか?いい加減、ワーレン家の嫁になったという自覚を持たないと!」
 お小言を続けるビッテンフェルトに、ルイーゼは頬を膨らませながら言い訳をする。
「父上!今日は父上にお話があって来たんです。だから、父上の帰宅を待っていたのに・・・。それにアルフォンスも、仕事が終わり次第こっちに来る事になっているの!」
 結婚して妻となったルイーゼだが、小さい頃とちっとも変わらないふくれっ面に、ビッテンフェルトも思わず苦笑いをする。
「アルフォンスも?そうか・・・」
(アルフォンスも一緒だと、今夜はゆっくり居られるな・・・)と考えたビッテンフェルトは、先ほどまでの渋い顔がつい緩んできた。
 ルイーゼは実家であるビッテンフェルト家に、日中はちょくちょく来ている。しかし、ビッテンフェルトとはすれ違ってばかりで、心配性の父親はミーネやヨゼフィーネを通して娘の新婚生活の様子を聞くばかりであった。そんな訳で思いがけない娘夫婦の訪問に、ビッテンフェルトは嬉しくなって上機嫌になっていた。
「ところでルイーゼ、俺に話とはなんだぁ♪」
「それは後でね!アルフォンスと一緒に報告したいの」
(ん?夫婦で一緒に・・・)
 一瞬、ビッテンフェルトは不思議に思ったが、ルイーゼの表情から(悪い話では無いだろう・・・)とあまり深く考えなかった。



 アルフォンスも顔を見せみんなが揃った食卓で、ルイーゼはビッテンフェルトに嬉しそうに報告した。
「父上、私、赤ちゃんが出来たの!」
「へっ・・・」と言ったきり言葉が出てこないビッテンフェルトに、みんなが注目した。だが、ビッテンフェルトの様子は、驚きというよりどこか困惑しているといった感じで、思わずルイーゼは訝しげに訊いた。
「父上は嬉しくないの?」
「あ、あの・・・いや、驚いたんだ!お前達はこの間結婚したばかりだったし、てっきり陛下の方が先に子供が出来ると思っていたから・・・」
 ビッテンフェルトはそのとき感じたことを、ついそのまま口に出してしまった。
「ハネムーン・ベイビーだったようで・・・」
 少し照れながらアルフォンスが説明する。
「父上は、私に赤ちゃんが出来たことを喜んでいないの?」
 大喜びすると思っていた父親の予想外の反応に、ルイーゼはつい感情的になってしまった。そして、怒った様子で席を立ち、そのまま部屋から出ていってしまった。
「ルイーゼ!」
 娘を呼びかけながら立ち上がったビッテンフェルトに、「義父上、私が行きますから」とアルフォンスが声をかけて、妻の後を追う。そんな娘婿の姿を見送りながらビッテンフェルトは「ふう~」と溜息をつくと、再び椅子に腰掛けた。
「チョットまずかったかな・・・」
 ビッテンフェルトは、ヨゼフィーネとミーネに問いかけた。
「当たり前でしょう!姉さんは父上に赤ちゃんのことを報告するのを楽しみにしていたのに・・・」
 ヨゼフィーネが怒って父親を責めた。
「こういう事に順番はありませんよ。ビッテンフェルト提督らしくもない・・・」
 ミーネも珍しくビッテンフェルトを諫めた。
「そうだよな~。何故、あんなふうに言ってしまったんだろう・・・」
 ビッテンフェルトも、先ほどの自分の発言を後悔していた。



 結婚して家を出たのにそのままになっている自分の部屋に、ルイーゼは逃げ込んでいた。アルフォンスはノックをして入ると、ベットに腰掛けているルイーゼの隣に座って話しかける。
「ルイーゼ、私の話を聞いてくれないか?ただ悪くとらないように!」
 夫のアルフォンスは笑顔であった。ルイーゼはその笑顔につられ頷いた。
「アレク陛下の父親である先帝のラインハルト皇帝の時代の話だ。忠誠を尽くす皇帝が独身なのに、臣下である自分が先に結婚するわけにはいかないと、長年婚約者を待たせた挙げ句戦死した元帥がいたそうだ。彼は、義父上や親父の同僚でもあった。実際、あの年代では、自分の私生活より忠誠心を大事に思う気持ちが多かれ少なかれあると思う」
 ルイーゼは夫のアルフォンスの話を、真剣な様子で聞き入っていた。
「皇帝ご夫妻への世継ぎへの期待は、軍人である義父上達は口に出さないけどかなり大きいんだ。だから皇帝夫妻にではなく、後に結婚した私たちの方に赤ん坊が出来たことに、義父上は少しばかり複雑だったと思うよ。それで、嬉しさより先に驚きが口に出てしまったんだ。実際、私だって君から妊娠を知らされたとき、とっても嬉しかった。だが、それと同時に、一瞬、陛下に何と言って報告しようかという気持ちも横切ったんだ」
 ルイーゼがハッとしたように自分の夫を見つめた。
「・・・私、自分の事ばかりだったわね。結婚して赤ちゃんが出来て、幸せ過ぎて随分浮かれていた。父上やあなたの立場が見えていなかった・・・」
 ポツリといったルイーゼの言葉に、アルフォンスが答える
「ルイーゼ、言っておくが私の考えは父親達とは違うよ!同じ軍人でも世代の違いなのか、家族に対する考えにずれがある。私だって軍人という仕事に誇りを持っているし忠誠心だってある。だが同じくらい家族も大事なんだ。私が家庭を欲しがっていたことは、君が一番よく知っているだろう!義父上だって、そのうち実感が湧いてくれば大はしゃぎになるさ!」
「アルフォンス、どうしよう?私、父上に『喜んでいない!』なんて、酷いこと言ってしまったわ」
「大丈夫!君の笑顔を見せれば、全て帳消しになるよ。・・・さて、奥さん、これ以上義父上を待たせては気の毒だよ」
 ニッコリと笑ったアルフォンスが、ルイーゼを促した。



「食事の最中に席を立ってしまってごめんなさい!お行儀が悪かったわ」
 食卓に戻って何事も無かったように笑って謝るルイーゼに、ビッテンフェルトもさらりと交わす。
「いや、いいさ・・・」
「さぁ、食べましょう!お腹がぺこぺこなの!」
 食事が中断した原因の張本人であるルイーゼの言葉に、アルフォンスもヨゼフィーネも吹き出しそうになった。
 まるで先ほどの一件が無かったかのように、食卓は話が弾み賑やかになる。
「そういえばルイーゼ、赤ん坊が産まれるのはいつ頃になるんだ?」
「予定日は8月8日よ」
「えっ・・・しまった~。そのあたりは黒色槍騎兵艦隊の遠征中だ!」
 一瞬ガックリしたビッテンフェルトだが、手帳を取り出し予定を確認した後、閃いたようにニンマリとなった。
「遠征の終了予定は8月半ばだ。これならなんとかぎりぎりで間に合うかも知れない!ルイーゼ、俺が宇宙から帰ってくるまで、赤ん坊は腹の中に入れておけよ!」
「えっ、そんな~、予定日が過ぎちゃうと無理よ・・・」
「俺は孫が産まれるのを見届けたい!気合いで乗り切れ~~」
(そんな無茶な・・・)
 その場に居たビッテンフェルト以外の人間は、皆同じような思いで呆れていた。そんな中、ルイーゼの隣に座っていたヨゼフィーネが、姉の方に体を擦り寄せてきた。
「姉さん、チョットお腹貸して~」
 そしてヨゼフィーネは、ルイーゼのお腹に向かってそっと囁いた。
「赤ちゃん~♪こっちのおじいちゃんはとっても我が儘だから、覚悟しておいてね!」


<END>


~あとがき~
思い込みが激しい癖にケロッと戻るルイーゼの性格は、まさに父親譲りです(笑)
アルフォンスも父親のワーレンに似て、猪娘の操縦が上手いです!
新婚ほやほやのアルフォンス&ルイーゼ夫妻と、おじいちゃんになるビッテンのドタバタ劇はこれからも続きます!