つよがり

雨音がうるさくて眠れない。
遠くからは雷鳴が近づいているようだ。
「雷か…」
ロイエンタールは体を起こしてベッドを降りた。
ガウンを羽織って窓辺に近づく。暗闇の向こうに稲光が光っていた。

「雷だぞ、ミッターマイヤー。ちゃんと彼女を抱いてるか?」
彼はくすっと笑みを漏らした。


雨音がうるさくて眠れない。
おまけに遠くからは雷の音が近づいてる。
「ああ、もう。怖くない、雷なんか」
エルフリーデは毛布を頭から被って、小さく丸くなっていた。
言葉とは裏腹に、彼女は雷が怖かった。
でもそれは当たり前のことだと思う。だって雷なんだもの。
雷は落ちるものなのよ。
ここに落ちないと何故言えるのよ?
私が弱虫なんじゃない。本当に本当に危ないのよ!

「起きてるのか?」
急に毛布の上から体に触られ、エルフリーデは悲鳴をあげて飛び起きた。
「何するのよ!脅かさないで!」
暗闇の中、激しい稲光がロイエンタールの姿を浮かび上がらせた。
彼女は毛布を引き寄せ、身を守るように抱きしめた。
「何の用よ!真夜中に!」
雷だけで手一杯なのに、おまえの相手なんかしてられない。
これが彼女の本音だった。
ロイエンタールは黙ってベッドに座ると、毛布ごと彼女を抱き寄せた。
「権利だからな」
そう言って、彼女を抱く腕に力を込めた。
しっかりと抱きしめられたエルフリーデは、当然のごとく抵抗した。
「離してよ!雷なのよ、それどころじゃないでしょう!?」
腕の中で暴れるエルフリーデを彼はじっと抱いていた。
何なの?この男、どういうつもり?
エルフリーデは、ただ抱きしめているだけの男の態度を不思議に思った。
彼女は抵抗を止めて、男の顔をそっと見上げた。
一瞬ふたりの目が合って、そしてすぐにそれは逸らされた。
エルフリーデは何故か鼓動が高まった。
「どうして…。どうして、こんなことしているの?」
彼女は震える声でそう尋ねた。
「さあな。たぶん、雷が怖いから…」
「え?」
「雷が怖いから、おまえに抱きついてる」
「ええっ?」
嘘ばっかり!いくらなんでも、この男が雷を恐れるなんて。
そんなわけがないでしょう!?
驚いて男の顔を見詰めると、彼は冷たい微笑を浮かべてこう言った。
「それとも、おまえを慰めるためにこうしているとでも?お姫様」
ばかにしたようなその言いぐさに、私は一気に頭に血が昇った。
なんて嫌な男なの。こんなやつの言いなりになんかならないわ!

でも悔しいことに、私の腕は心を無視して男にしがみついていた。
雷はもう、すぐ近くまで来ているのだ。
真っ暗な部屋が、眩しい光で絶え間なく浮かび上がってる。
私は男の胸に更に頭を押しつけた。
当面の敵が去るまでは、もうどうにもならないらしかった。
「馬鹿じゃないの?軍人のくせに雷が怖いなんて。私は全然怖くないんだから!」
「そうか」
「そうよ!」


雷が遠ざかってしまうまで、ずっと二人はそうしていた。


END


あきさんの「crimson clover」でカウント1000番を踏んだ記念に頂きました。
ありがとうございます素直でない二人が、こんなに優しい雰囲気で、ひとときを過ごせたのは雷のお陰ですね。
どうしてもいがみ合うイメージがついている二人ですが、私的にはお互い惹かれ合っていたと思っています。
この「つよがり」には、ロイの思いやりとエルのかわいらしさが表れて、とっても嬉しくなりました。
あきさんの「ロイエル」今後も楽しみにしています。