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「ローマの休日」のオードリー

「ティファニーで朝食を」「シャレード」「マイ・フェア・レディ」など数々の名作でそれぞれに魅力的なヒロインを演じたオードリー・ヘプバーン。「昼下がりの情事」でチェロを弾くオードリーも可愛かったが、なんといっても「ローマの休日」のアン王女は最高だ。優雅な気品と汚れない無邪気さが同居する不思議な魅力は、演技というよりもむしろあの頃の彼女の素(す)だったのではないだろうか。
一番好きなのは「真実の口」のシーン。その口に手を差し入れた者が嘘つきだと手はぬけなくなり噛みきられてしまうという観光名所「真実の口」で、ジョー・ブラドリー役のグレゴリー・ペックがふざけて手を噛みきられたふりをした時に、すっかり騙されて悲鳴をあげてパニックになってしまうオードリーの可憐さ。(このシーンは監督がG.ペックとしめしあわせて実際に騙したらしい)そして騙されたと分かって思わず抱きついてしまう。ふたりの心が急速に近づく名場面である。
決して結ばれない恋、テーマそのものは目新しいものではない。しかし名匠ウイリアム・ワイラーの手抜きの無いしかも鮮やかな演出はいつのまにか私たちを映画の中へ入り込ませてしまう。単にラブ・コメディーと分類することができない、上品で上質のロマンチシズムあふれた大傑作といえよう。
ラスト、記者会見のシーン。たった一日で激しく恋してしまった相手を目の前に、あまりに強い意思の力で自分を押え込む彼女の心情を思う時、私は涙をこらえることができないのであった。

オードリー・ヘプバーン出演作、「麗わしのサブリナ」も良い「おしゃれ泥棒」も素敵だが、少し毛色の変わったところでの好みの一本は「パリの恋人」(この邦題はあまりに安易、原題は Funny Face)。お洒落でキュートなオードリーと共に、フレッド・アステアのダンスのみごとさにウットリしてしまう。

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