ヨーロッパの国々\ 国際都市ウィーン(5)
ウィーン市 市庁舎前ヨハン・シュトラウスとヨーゼフ・ランナー
 ウィーンの中心を取り巻くリングの外側には、ウィーン大学を初め、市庁舎、国会議事堂、自然史博物館、美術史博物館など、重要な建築物が立ち並んでいます。リングに添ってさらに進むと、市民の憩いの場所であるシュタット・パルク(市立公園)に辿り着きます。公園のあちこちに、ウィーンに縁の深い人物の像が立ち、音楽家ではシューベルトやブルックナーも見出せます。中でも特に有名な像は、白亜のアーチの前でヴァイオリンを奏でるヨハン・シュトラウス(子)でしょう。公園の端にあるクアサロンでは、週末に彼のワルツやポルカが演奏され、人々を楽しませます。彼の音楽は、こうした野外演奏の他に、フォルクス・オーパー(国民歌劇場)でも常時上演されています。今回私は、「こうもり」と「ジプシー男爵」を鑑賞しましたが、当時のウィーンの生活をほうふつさせる素晴らしいオペレッタでした。
 彼が1868年に初演した「美しく青きドナウ」は、音楽の美しさに加えて、オーストリア国民の愛国心を鼓舞した点でも、重要な音楽です。私はこの美しく青きドナウを見るため、ビデオを担いで出掛けました。ウィーン市の傍らを流れる川はドナウ運河で、その外側にさらに広いドナウ河、なおその外側に同じ規模のノイエ(新)ドナウ、そしてさらに外側に流れを堰止められて点在する湖がアルテ(旧)ドナウです。ドナウ河は、水上交通や生活排水の流入でかなり濁っておりますが、ノイエ・ドナウは実にきれいで、恐らくシュトラウスのころのドナウは、このように水が澄んでいたのでしょう。さらに進んでいくと、木立の中に光る湖が現れ、岸辺には沢山の人々が、日光浴や野外炊飯をしていました。甲羅干しをしていた中年の男性が話かけてきました。「日本人か?」「そうだ」「日本は素晴らしい。科学技術も女性も。うん、アジア人はいい」「ウィーンには結構アジア人が多いようだが?」「そうだ。特に看護婦が多いなあ。フィリピンやマレーシァ人の」突然話は政治問題に飛躍しました。「日本人は優秀だ。だから今後狙われ続ける」「どこが日本を狙うというのか?」「もちろんソ連や中国に決まっているさ。今まではヨーロッパだった。だが今度はアジアだぞ。特に日本があぶない。第三次世界大戦は必ず起こる。日本が戦場になる可能性は十分ある。だかその後は日本が世界のナンバーワンだ。なにせ日本人は優秀だからなあ…」 延々30分もまくしたてられ、こちらもいいかげんくたびれたので、改まって尋ねました。「あなたはどこの大学のプロフェッサーか。そして専門は何であるか?」彼答えて曰く「なに、しがないペンジオーネン(民宿ー複数)の親父よ」。
 (以下次号)
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