ヨーロッパの国々(最終回)時代を担う子どもたち
この写真はVolksbildung in der DDR より
  ソ連を含む東欧諸国の変貌によって、東西関係の構図が変わり、冷戦は遠のいたかのように見えます。今世界の目は中近東に釘づけですが、長期的展望に立てば、ドイツの統合こそ、今後に及ぼす影響が計り知れないほど重要であると思うのです。この統合が、将来への輝かしい第一歩になるのか、あるいはおぞましい過去の二の舞を演じることになるのかは、世界の全ての人々に関わることで、単なる傍観者でいることは許されません。今回の統合は、実質的には西ドイツによる東ドイツの併合であり、東ドイツの西ドイツ化を目指すもので、ここに私は一抹の不安を感ずるのです。自由を奪われた人々がつつましい生き方の中で見いだした多くの価値あるものや、隣人愛によって培われたさやかな連帯はどうなるのでしょう。瓶類の徹底した回収、繊維だらけになるまで再生する紙類、いい意味での省エネ、省資源の政策は生き残れるのでしょうか。
 国の未来は子供たちに託されています。疲弊した東ドイツでも、子供たちはめっぽう明るいのです。こんなことがありました。ヘルダー研究所に宿泊している外国人に、幼稚園見学の機会がありました。出発する時間に10分ほど遅れた私は、行く先を用務員の小父さんに聞き、40分もかけてやっとその幼稚園に辿り着くことができました。園長さんと面会し、見学に来た他の人と合流したい旨伝えましたが、どうした訳か一向に話が通じないのです。園長さんはまだ若く、知的な方で、私の話をメモし、一生懸命理解しようとなさるのですが、どうにもこうにも通じません。最終的には園長さんがわざわざ研究所に電話をかけてくれ、皆は別の幼稚園で見学していることが分かりました。何のことはない、私は彼に一杯食わされたのです。赤面した私はお詫びして帰ることにしましたが、園長先生と私の話を代わるがわる覗きにきていた子供たちが、私を取り巻いてカウボーイ、カウボーイと囃たてるのです。私はそのとき左のベルトにカメラを、右にはポシェットを下げていましたので、すばやく銃をかまえるまねをしてバンバンと言いますと、子供たちは手を打って喜びました。別れを告げると、すぐアウフヴィーダーゼーンとかチュス(親しい人との別れ)の挨拶が返ってきます。屈託のない園児たちの目は好奇心に輝いており、活発でゼスチゃーも豊かです。私は次代を担う彼らが、この国にまだ残っている良さを素直に受け取り、育って欲しいと心から願わずにはいられませんでした。
 「ヨーロッパの国々」は、今回で終わりにさせていただきます。長い間ご愛読下さり有難うございました。

     (次のページに番外編があります)

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