今日は珍しく剣による奇襲もなく、平穏な時間を過ごしていた。


それにしてもいいかげんにしてほしい。


腐れ縁コンビはまだいい。なにせ青い方が常識人だからだ。
が、赤青コンビはまずい。一見まともそうに2人とも見えるのだが中身はとんでもない…青い方は天然でやたらと赤いのに騙されたりなんだりして攻撃してくるし、赤い方はもうなんのためらいも無く俺に仕事を押し付けるはわざと書類を期限ギリギリまで留めといて俺にわたすは罠を使ってまで俺を剣で追い込むは…。


まぁとにかく今日は本当に珍しく誰からも奇襲されていない。


ここまで平和だと何かがあるような予感を感じるが今のところ災いもふりかかってない。



そして俺は背筋を這い上がる悪寒を気のせいということに決定し、後ろにある気に背を預けて本を読み出した。




















久方




















俺が本を読み始めてしばらくすると誰かがこちらに近づいてくる音が聞こえた。


足音から察するに足音の持ち主は体重が軽いようでアップルさんかと思って俺は本にしおりを挟み膝の上に置くと顔を上げた。


しかしそこにいたのは俺が想像していた人ではなく銀の髪に赤い瞳の少女だった。


「お久しぶりですシエラ嬢。」


「相変わらずは可愛いのお。」


シエラ嬢は俺の隣まで歩いてくると優雅に腰をおろした。


何故かシエラ嬢は俺を気に入ってくれているらしくちょくちょく俺に顔をみせにやってくる。

俺がなぜシエラ嬢に気に入られているか…それは俺が最初に呼んだ呼び方がいたく気に入ったらしい。

なんでも最初から本性丸出しのあの口調で俺に話しかけてきたそうだが俺は何の疑問も抱かず


「しえらおねぇちゃ」


と呼んだらしい。


さすがに今はもうそんな呼び方は恥ずかしくてできないが、そのかわりに俺は「シエラ嬢」と呼んでいる。


実年齢(?)を知った後もそういう扱いをする人種は少ないらしくそれがまた俺を気に入る結果に繋がったらしい。


実際ナッシュさんが「妖怪ババア」と呼んだことがあるとか無いとか…


「今日はどういったご用件ですか?」

「なんと、おんし友人の家を訪ねるのには何か理由が必要というのか?」

俺がちょっと悪戯気分でそう聞くとシエラ嬢もちょっと意地悪に返してきた。が、その顔には明らかに『楽しい』と書いてありきっと俺の顔も同じようなことが書かれているのだろう。


「まさか。ところで誰が可愛いって?俺はもう可愛いっていう年じゃないって。」

「おんしの可愛さは年齢に左右されんもの、しかたなかろう?」

「いや・だから・俺の・どこが・可愛いって?」

「性格じゃな。」

「………」



泣いていい?



「シエラさん、俺のこといじめに来たのかよもしかして。」

「それこそ『まさか』じゃな。」



…なんで俺の周りの人間ってこんなんばっかなんだろ。

「それは『類友』と俗に言う」


「あなたも『友』ですか?」
と、行ってみたかったがまだ命が惜しいから口には出さなかった。

良く考えるとナッシュさんって命知らず?


おれが『ナッシュさんは命知らずか?』という命題のもと考え込んでいると隣からふと思い出したような調子で問いかけられた。


「ところで…おんし最近旅に出たいと話しておるようじゃな。」

「なんか最近仕事、仕事で疲れてるみたいでさ。」


俺はシエラさんの方を見ず枝の隙間から見える空を見つめながら続ける。


「それに最近回りの奴ら俺が親父の後を継ぐと決めてかかってる。俺の意思はいったいどこに投げ飛ばされたんだろうなぁ。」

「そう考えるようになったら急に旅に出てみたくなってさ、まぁ実際には無理だと思うけどな。仕事が滞るから許可も出ないだろうし。」


そこまで言うと俺はシエラさんの方を向き口の端だけを歪めた。


「だからこれは俺の夢だな。叶うことが無い夢。」


シエラさんは俺の方を向き、ため息をつくと



バシッ



「イテッ!!」



俺の頭をはたいた。


「甘えるでない、旅に出たければ旅に出ればよかろう。、おんしの人生・時はおんしのものであって他の誰のものでもない。」



バシッ



「い、痛いってシエラさん!!」



「か弱い乙女の平手ぐらいたいしたこと無かろう。確かに親などの先人の言葉には耳を傾ける価値がある。しかしそれを聞き、道を選ぶのはおんしで先人たちではない。」



ポン、



「シ、シエラさん?」



「道が悪路で進むことが困難でも他人のせいにするでない、自分の行動の責任は自分で持て。それができるならば自分で道をひらけよう。」


シエラさんは俺の頭を軽くひと撫ですると「さて」と言いながら立ち上がった。


「さて、わらわは帰るとするかの。」


日の光を背負いこちらを向くシエラさんは身体は小さいのにとても大きく感じた。
きっと長い年月をかけて育てたその心が大きく見せているのだろう。


「俺も部屋にもどるわ、そろそろ仕事の催促がきそうだしな。」


そういいつつ部屋の方を振り仰ぐとかすかに俺を探す声が聞こえてくる。


「では、またな。。」


「シエラさんも気をつけろよ、美人なんだから。」


「よう言うわ、まぁ素直に受け取っておこうかの。」



そう言いつつシエラさんは無効へと歩き出した。



「俺は正直者だってば。」



小さくなった背がかすかに震えたような気がした。



「さてと、そろそろ仕事に戻りますかね。」


そして俺も歩き出した。





ガシャン。




……
………
…………



植木鉢が降ってきたんですけど。


慌てて上を見上げると、窓から赤いのが植木鉢片手にこちらに向かって笑顔を振りまいていた。



「あ……あぶねぇだろうがっ!!死んだらどうしてくれる!!」


「大丈夫ですよ、ちゃんと葬儀は出してあげますから。」


やはり赤いのは笑顔のままそう言いやがった。


「そういう意味じゃないっ!!」


「他には何もすることは無いですねぇ。」


「がぁ〜〜〜!!もう、誰かアイツに天罰食らわせてくれっ!!」


…それって神限定じゃんか。


「馬鹿ですねぇ。神ごときが私に天罰を下せると思いますか?」


思いません。むしろ祟り返されそうです。


「さぁ、『植木鉢を当てられて死ぬ』なんてまぬけな死因で死にたくなければ早く仕事を片付けてもらいましょうか?」


「………はい。」


奴は間違いなくヤル。


今の俺はきっとはたから見たら思いっきり肩が下がって、背中に哀愁を背負っていることだろう。というか絶対背負ってる。


俺はしおりを挟んだ本を片手に部屋へと戻る道をたどり始めた。


部屋へ戻る道の途中シエラさんの言葉が甦ってくる。


「俺の人生・時は俺のもの、か。」


そうだよな、よく考えたらなんで俺の将来が俺以外の誰かに決められなきゃいけないんだよ。


俺の人生は俺のもの、だよな。


「そうと決まったらさっそく荷造りでもすっかな。」



そして数週間後、俺は森の中を赤騎士に追いかけられ、滝を落下することになる。











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アトガキ(懺悔)
えっと詩亜さんからのリクエストで『連載主人公とシエラでのんびり』
とのことだったのですが…すみません。ぜんぜんのんびりじゃないです。
管理人、のんびりをかこうとすると何故か縁側で茶をすするイメージし
か浮かばないのですよ…(汗)
しかもシエラの口調があからさまにおかしい(滝汗)
せっかくリクいただいたのにこんなんですみません。